第15章 幽霊の穴の上の家
アドベンチスト・セダウ診療所での仕事を楽しんでいたある日、ペリーにはもう一つ興味深い出来事がありました。ある日、セダウのプマタン村にある借家の縁側に座っていると、腰の曲がった、よろよろと歩くおじいさんが家の前を通りかかりました。ペリーは丁寧に声をかけ、「どちらへ行かれるのですか?」と尋ねました。するとおじいさんは、自分は病気だがどうしても何かを買いに行く必要があり、家族にそれを頼めるほど健康な人がいないのだと話しました。
ペリーは再び、「それなら治療を受けたほうがよいのでは?」と聞きました。するとおじいさんは、「家にお祓い師(呪術師)が来ていて、家族全員が回復するにはこの家から引っ越さなければならないと言われた」と答えました。なぜなら、この家は“幽霊の穴”の真上に建っているのだというのです。しかし、おじいさんとその家族には、引っ越す先がなく、住み続けるしかないとのことでした。
それを聞いたペリーは、「なぜ幽霊のほうを追い払わないのか?お祓い師はその幽霊を追い出せないのか?」と問いかけました。おじいさんは、「幽霊を引っ越しさせるなんてできるのかい?」と疑問を口にしました。ペリーは答えました。「なぜ人間が幽霊に屈しなければならないのですか?出ていくべきなのは幽霊のほうです」。するとおじいさんの目にわずかな輝きが戻り、「それなら、どうか幽霊を追い払っておくれ、私たちはここに住み続けたいのだ」と懇願しました。
ペリーはこの会話を一つの使命と受け止めました。おじいさんに「まずはお帰りください。後であなたの家に伺います」と伝え、自宅に戻りました。そして妻のレリースと一緒に祈り、神からの力を求めました。その後、いつも診療に持ち歩いている医療用バッグを携えて、おじいさんの家に向かいました。内心では「何を見て、何をすべきか」まだわからず、不安を抱えていましたが、確信をもって一歩を踏み出しました。
おじいさんの家に到着すると、そこには家族の他にも見舞いに来ている親族がいました。しかし誰一人として、部屋の中央には座っていませんでした。そこには白装束で長い白ひげをたくわえ、香炉を焚いている人物がいました。おそらく彼がその呪術師なのでしょう。全員が壁際に座り、部屋の中央はぽっかりと空いていました。
ペリーは、まるで本当に床に穴が開いているかのように振る舞い、壁際をそっと歩いて部屋の中央を避けて進みました。家の中は窓がなく、日中でも灯油ランプを使っており、室内は煙で黒くすすけていました。ゆっくりと部屋を抜けて台所の裏口へと進み、外に出たところで彼は少し大きな声で言いました。
「おお、幽霊たちはこの家の床下の穴にはいないぞ。ここ、木にぶら下がっている!ちょっと来て見てごらん!」
家の周囲にはマンゴスチン、クイニマンゴー、ドリアン、バナナ、その他の雑木が生い茂っていました。庭も家の床下もゴミだらけでした。
その声を聞いた家の人々は、裏口から一斉に外に飛び出してきました。ペリーは続けて、「ほら、あのマンゴスチンの木、クイニマンゴー、ドリアン、バナナの木、それらにいるんだ」と言いました。皆は目を凝らして木々を見上げましたが、当然何も見えませんでした。呪術師も必死に木を見上げていました。
そこでペリーは言いました。「この木は全部切らなければなりません」。人々は「怖くて切れません」と言いました。そこでペリーは彼らから山刀を受け取り、木の幹にそれを振り下ろしました。ドリアンの木だけは大きく育ち実を多くつけていたので、「この木だけはもう幽霊が住まないから切らなくていい」と言いました。彼は続けて、「他の木も後で切りましょう。もう恐れる必要はありません。私はすでに始めましたから」と励ましました。
次にペリーは、家の周囲に散らかっていたゴミの処理に着手しました。「家の下にあるゴミをすべて集めて焼いてください。そうしないと木から出て行った幽霊が今度はゴミに住み着いてしまいます」と指示しました。
その後、ペリーは家の住人一人ひとりを診察しました。その結果、皆がマラリアにかかっていることが分かりました。彼はそれぞれに適切な薬を処方し、その後、数日で全員が快復したという知らせが届きました。引っ越す必要もなかったのです。
この経験を通して、ペリーは、迷信を信じる人々に対して健康的な生活習慣を教えるためには、まずその文化に入り込んで共感を示し、そこから徐々に健康の法則や、闇の力を打ち破る神の導きを伝えていくという方法が効果的であると感じました。